気ままなひとり旅〜後編〜

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ライダーハウスに着いた僕はマスターと小一時間談笑し、スーパーへ買い出しへ向かった

 

マスターから聞いた道のりをひたすら走る。

確か、橋を渡った先にある二つ目の信号を左折だ。

10分ほど走ると、一気に市街地っぽくなってきた。

一つ目の信号を越え、橋を渡り、すぐの信号を左折する。

夕方、学校から帰る子供たちや、車も多い。

 

左手に大きなスーパーが見えてきた。

知らない町の、大きなスーパー。なんか少しワクワクする。

駐車場をゆっくりと回り、バイクを停めれそうな場所を探す。

エンジンを切り、ヘルメットをミラーに掛ける。

しばらく離れるので、ダイヤルロックをヘルメットのあごひもに掛けておく。

スノボの板用のやつだが、便利だ。

 

冷房が効いた店内に入る、

とりあえず、ビールとステーキ以外は何も考えていなかった。

海が近いので、魚が美味しかったりするのかなぁと思い、

カツオのたたきを買ってみた。

ステーキ肉、お酒のあて、ビールをカゴに放り込み、

思い出した。

ガレージ風のライダーハウスの中にはウイスキーの空き瓶が大量に並んでいた。

ウイスキー好きなんですか?」と尋ねると、

「好きってわけでもないけど何年かかけて飲んだ瓶を置いてたらこうなったんだよ」とマスターは笑っていた。

 

僕は小さめのウイスキーのボトルと、ジンジャーエールもカゴに放り込んだ。

 

会計を済まし、袋に詰めていく。

保冷バッグに氷を入れ、缶ビールを詰めていく。

キンキンに冷えたビール、これほど美味しいものはない。

 

リュックに詰め込み、バイクに戻る。

エンジンをかけ、先程の道を戻った。

 

ライダーハウスに戻ると、もちろんマスターは留守だが、入り口だけ開けておいてくださっていた。

そのまま、バイクで裏庭まで抜ける。

 

目の前には川、裏庭は木々が手入れされており、綺麗だ。

バイクを停め、荷物を下ろし、テント設営に取りかかる。

 

だんだんと設営に慣れてきた、自分に少し嬉しくなる。

グランドシートの向きも間違えなくなった。

 

ただ、地面に刺すペグが、草と同じ色で、何度も足を引っ掛ける。

これは酔っ払うとテントごと吹っ飛ばしそうだ。

30分後、ようやく設営も終わり、まずは一杯。

 

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カツオのたたきと唐揚げ

 

一番搾りはやはり美味い。

 

川の音、鳥のさえずり、そしてどこか遠くでラジオの音(動物避けだろうか?)が聞こえる。

 

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しかし、梅雨とはいえ、天気もいいので、

虫がすごい。かゆい

とりあえず、蚊取り線香をつけてみた。

 

酔いも手伝ってか、虫も気にならなくなってきた。

 

何本目かのビールを空けたところで、

あたりがそろそろ暗くなってきた。

LEDランタンを点ける。

本当はオイルランタンを持ってきたかったのだが、いかんせん荷物が多いのでコンパクトな物にした。

 

そして、

完全に火が沈みかけたころ、

焚き火をさせてもらうことにした。

薪は、ここにある分なら使っていいよ、と言ってくださった物を使わせてもらう。

 

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雑なフェザースティック

ナイフでフェザースティックを作り、メタルマッチでほぐした麻ひもに着火する。

が、なかなか火が点かない。麻ひもが湿っている?

缶ケースに入れて保管していただけではダメだったのだろうか?

格闘すること、数分。

ライターに浮気しそうになったが、ここまできたからには、と

やっとのことで、麻ひもが燃え出す。すかさず、細い木から火を大きくしていく。

暗闇の中で、小さな火が大きくなっていく。

何本目かの薪を放り込み、くつろいでいるとマスターが帰ってきた。

 

「おぉ、やってるね」

「はい、焚き火でステーキを焼いてみたいなと思いまして」

 

少し火を見ながら談笑し、ホタルがまだこの時期は出るかもよ、と教えてもらう。

 

「じゃあ、楽しんで」とマスターは家の中へ入っていき、

それから、思い出した。

 

あ…ウイスキーのボトルを買ったんだった。

せっかくだし、一杯どうですか?と誘えば良かった。

 

時すでに遅し。

一人でステーキを焼き、ビールをぐびぐび飲んだ。

 

あぁ、美味い。

 

なんだろう、

親戚のおじさん、それも小さな頃から会っていない、

大人になってから、久しぶりに会うような、

そんなおじさんの家に泊めてもらっているような気分だった。

 

ふと川のほうに目をやると、

ホタルが飛んでいた。何年ぶりだろうか、ホタルを見たのは。

たぶん、僕の家の近くにも探せばまだいるはずだろうけど、

こうやって、ぼんやりと見つけることはない。

 

飛んで火にいる夏の虫とはよく言ったもので、

焚き火の方まで飛んできた。

至近距離でまじまじと、光を放つホタルを見た。

すごいな、こんなに小さな虫が、こんなに光を放っている。

ホタルの寿命は約1週間くらいだという。

そうか、人間の大きさに換算して、人間がこれくらい光ってたら、

人間もエネルギー使い過ぎて、寿命1週間くらいになりそうだ。

 

酔いも手伝い、そんなことをしみじみと考えていると、

最後の缶ビールが無くなった。

 

さぁ、そろそろ寝ようかなと寝支度をし、

テントへ入る。

寝袋は持ってきていないが、アルミシートを体に巻けば十分暖かい。

 

ランタンの灯りを小さくし、横になる。

 

 

 

 

 

 

 

どれくらいの時間が経っただろうか、

 

テントの外、川のほうか?

それとも、茂みのほうからだろうか?

 

 

男性のうなるような声が聞こえてきた。

 

 

 

「ウゥゥ〜…うあぁ…」

 

 

 

 

まさかな…。

 

 

 

 

「うぅ…」

 

 

 

いや、間違いない。

聞こえる。

 

 

まだ遠くでラジオの音は聞こえるが、

ラジオのそれではない。

 

 

 

うそやろ。

 

 

マジかよ。

 

 

 

(つづく)