山でカップ麺

梅雨の間の快晴であった。

バックパックに必要最低限の荷物だけを詰め込み(といってもパンパンになるのだが)、先日購入したMuttMotorSyclesのAKITA250に乗り、山へ向かった。

道中、コンビニでカップ麺とインスタントコーヒー、1Lの水を買う。

とある山の上。

ここが今日の野営地だ。目的は焚き火でお湯を沸かし、カップ麺とコーヒーを飲む。

ただ、それだけである。

凸凹道をバイクに揺られながら登っていく。

先日、車で来た時よりも道が悪くなっている気がする。

しばらく走ると、開けた場所に出る。

ここにしよう。バイクを停め、エンジンを切る。

鳥のさえずり、滝の音しか聞こえない静かな場所である。


まずは薪の調達だ。

茂みに入り、乾いていそうな小枝、折れた木を集める。

これが中々の重労働だった。

他に手頃な木はないかと、川の向こうから木を担いで持ってくる。

もちろん橋はかかっておらず、石の上をバランスを取りながら進む。

慣れておらず要領が悪いので、汗が止まらない。

ようやく集め終えた木を、石で作った焚き火台の中に入れる。

これだけで玄人感が出てる気がして、満足してしまった。

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今回はスギの葉と小枝、そして細かくした麻ひもに着火することにした。
ここまできて、ライターで着火は味気ないと思い、今日はメタルマッチを使うことにした。
マグネシウムの棒をカリカリと擦り、麻ひもに粉を落とす。そこから勢いよく擦り、火花を散らす。
麻ひもに一発で火が着いた。うれしい。燃える麻ひもをスギの葉の中に潜り込ませると、順調に燃えていく。小枝から徐々に木を大きくし、火にくべていく。この瞬間がたまらない。
火を見ながらタバコを吸っていると、本来の目的を思い出した。

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そうだ、焚き火がある間にお湯を沸かさないといけない。クッカーに水を入れ、火にくべる。ゴトクがないので安定しない。木や石を使い、倒れないように固定する。

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火吹き棒でひたすら吹き、火力を調整し、ようやくお湯が沸いた。地面が平らではなく、今回はテーブルを持って来なかったので、カップ麺の粉末を少しこぼしてしまった。もったいない。
3分待ち、カップ麺を食べる。美味い。焚き火で作ったカップ麺は最高だった。
残りのお湯が冷めないうちにコーヒーを入れる。これまた、美味い。ただのインスタントコーヒーなのに。

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ここでようやく、椅子を使おうとする。今までしゃがみこんで食べていたのだ。
何故なら、ヘリノックスのチェア、買ったばかりでまだ袋から出してさえいない。
設営に時間がかかりそう、と後回しにしていた。
ところが、なんといえばいいか、袋から出すと、パキッ、パキッ、カチャと自動で組み上がるくらいにスムーズに組み立てられた。
これなら、最初から座ってゆっくりできたなあ、なんて思いつつ、椅子に腰かける。

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自然の音と焚き火の音だけの空間。

気づけばうとうとしていた。
眠っているのか、起きているのか分からない、なんともいえない時間が過ぎた。
焚き火が完全に灰になっているのを確認し、水をかけ完全に消化する。
手で温度を確かめながら、自然の状態へと戻していく。
ゆっくりと道具を片付けて、バイクにまたがり山を下る。

 

だんだんと人里へと近づいていく。
このままふらっとどこかへ走ってみようと思った。
すれ違うライダーへ手を振り、挨拶を交わす。
しばらくあてもなく峠を走る。
標識を見ると、近くに天文台があるようだった。
山道を登っていく。まだ慣らし運転中なので、できるだけエンジンに負担をかけないように、ゆっくり、ゆっくりと走る。
10分ほど走ると、頂上に着いた。
素晴らしい景色が、そこにはあった。

 

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家に帰れば、スイッチひとつでお湯が沸き、電気が付き、温かい風呂に入れ、暖かい布団で眠れる。
だけど、今日僕は半日かけて、カップ麺を食べた。

これを僕は時間の無駄だとは思わない。
本当に心から、最高の経験だった。